静かな雨音に満たされた室内は、まだ薄暗闇のなかに眠っている。 体は柔らかな温もりに包まれていて、瞳を閉じたまま、毛布越しに遠く聞こえる音へ耳を傾けていた。 僅かに身じろぎすれば、肩に触れた空気がひやりと冷たい。 温もりを求めて布団に身を深く沈めれば、背中に回されていた腕が体を引き寄せてきた。 ぎゅうと、抱かれた瞬間、ふたつの鼓動と体温が、そっと寄り添う。 差し込まれた指が、擦り寄せられた頬が、髪の毛を撫でる。 「起きてたのかよ」 「寝てる」 「・・・うそつけ」 くぐもった声には、雨の音が滲んでいる。 更に強くなった抱く力に、ちょっと苦しいんだけど、と僅かに裾を引っ張る。 しぶしぶと弱まったそれは、やっぱり体を包み込んだまま、離れていこうとはしなかった。 「起きないの?」 「もうちょっと、」 途切れた声の代わりに、しばらくして寝息が耳元で紡がれ始める。 感じられる息遣いに、触れ合う体温。 二人の距離はいま、どこまでも近かった。 その広い胸元に手を添えて、甘えるように額を肩に押し付ける。 瞳を閉じた先の闇に、その体温に包まれたまま、思考は徐々に夢の底へと沈んでゆく。 灰色で冷たい空の広がる、とても暖かい朝だった。 2011 Mar.21 |