「あれ?これって何処押せば・・・」
「おいおい、あんまり乱暴に扱うなよ」
「分かってるって、ええと、あれ・・・?」

眉間に皺を寄せ、あちこち覗き込んだり、唸ったり。
暫くして、美咲は構えていたカメラを下ろし、秋彦へ苦笑を浮かべる。

「ねえ、ウサギさん」

全く、しょうがないな。

一通り、取り扱いの説明を終えてやると、美咲は再び得意げにカメラを構えたり、下ろしたりしている。
しかし決して壊したり、落としてしまわないように、その手は宝物を抱えるかような、とても慎重な様子が伝わって来た。
普通だったら、他人の手には絶対触れさせたりはしない。

「ほら、ウサギさんこっち向いてよ」

陽だまりのそそぐソファーに腰かけ、鈴木さんのリボンをいじっていたら声が掛る。
カシャ、
振り向いた瞬間、カメラのシャッターが切られた。

「・・・俺なんか撮ってどうするんだ」
「いいじゃん、他に撮るもの無いし。いつも撮る側なんだから」

たまには撮られる側の気分にもなってみろよ。
常日頃から秋彦に被写体とされている美咲は、楽しそうにフレームを覗き込んでいる。

「ねえ、ほらウサギさん」

笑って?

カメラ越しに、美咲の瞳が秋彦の姿を見ている。
やれやれと僅かに溜息を吐くと、秋彦はいつものように笑い掛けてやった。
勿論、カメラのレンズにではなく、その奥の美咲に。

「!」

すると美咲がぎょっと顔を上げる。

「どうした?」
「な、なんでもない」

じわじわと顔を赤くしながら、美咲は表情を隠すように、レンズの奥へ顔を沈める。 下から覗くへの字に曲げられた口元を見ながら、今度はふっと笑みが零れた。

暖かい日差しの下で、再びシャッターの音が響きわたる。




2011 Mar.17

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