大雨の降りしきる空を前にして、弟は泣いていた。


厚い雲が夜空を覆い隠しているせいで、外は濁ったように暗い。
打ち付ける雨音は、まるでこの室内にも降り注ぐように響き渡る。
窓辺に立ちつくした美咲の背中はとても小さい、
窓越しに見えた瞳には、深い色の奥底に雨の滴が映り込んでいた。

美咲

声を掛ければ僅かに肩を震わせて、瞠目した瞳が孝浩の姿を捉える。

すごい雨だね、

笑った表情はいつもと何も変わりが無い、
只一つ、その揺れる瞳を除いては。

こっちへ来るよう促せば、美咲は素直に孝浩の元へとやってくる。
その頭を撫でてやれば、くすぐったそうにぎゅっと目をつぶった。

なあ美咲、知ってるか?

きょとんとした表情で、美咲はきょろりと孝浩を見つめる。
孝浩はさっきまで美咲が立ち尽くしていた窓に、カーテンを引く。
そして部屋の照明を落とすと、暗闇に戸惑った美咲の様子が伝わってきた。
その背中を促して、手さぐりでソファーを見つけ出すと、二人でそっと腰かける。

空には沢山の星が輝いているんだよ

暗闇に慣れてきた目で隣に座る輪郭を見つめ、孝浩は続ける。

今は雲に全てが覆われてしまっているけれど、
その先にはいつだって、綺麗な星空が広がっているんだ。

それに、星が輝くのは夜だけじゃない、
いつ、どんな時だって真上にあって、それはとても小さな光だけれど
いつだってこの空を照らしているんだよ。

例えその姿は隠されてしまっていても

孝浩は真っ暗な天井をぼんやりと眺めながら、ゆっくりと美咲に語り掛ける。
ここには地上を打ち付ける雨粒も、星の光も届かない。
それでも二人の頭上に広がるのは、無限の輝きを持つ満天の星空。
すると僅かに高揚した様子で、美咲は不意に身を乗り出した。

じゃあ、じゃあさ、今も星は光ってるの?

きっとその瞳に映っているのは、もう冷たい雨の音ではなく、
暖かな光を持った星の輝き。

勿論だよ、

穏やかに笑った孝浩は、もう一度美咲の頭を撫でまわす、
そして今でも輝き続けている、二人の上に広がる星空を見上げた。

その姿は見えなくたって
いつだって美咲を見守っているんだ。







2011 Mar.16

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