(テロリスト)


「これで荷物、全部か?」
「うん」
「しかしお前、一人暮らしとはいえ随分少ないなー」
「別に」
「そうだ、昼メシ。出前取るけど」
「何でもいい」

ここまで来ると流石に振り返って、そっぽを向いてこっちを見ようとしない忍をちらりと盗み見る。
いつも通りの、でもいつもよりももっとそっけない響きの返事。荷物の整理をしている背中は単に集中しているだけのようにも見える。がしかし、さっきからそこに意図的なものを感じてしょうがない。故意に宮城を避けているように思うのだ。
今朝から忙しなく動いていたせいで殆ど意識をしていなかったが、思えばずっとこんな態度だったような気がする。
機嫌を損ねた記憶は多分、無い。ただ無意識のうちに、何か仕出かしてしまったのかもしれない。そこで昨日、一昨日、と自らの行動を振り返ってみるが、やはり思い当たる節は無いように思う。
忍をじっと見つめていた宮城は、本の詰まった段ボールを床へどさりと置いた。

少しだけ、苛々する。
俺が何をしたってんだ。
だって今日は、ようやく二人での暮らしが始まる日だというのに、そんな不機嫌そうにされて面白くない筈がない。気に入らないことがあったとしても、せめて今日ぐらいは楽しそうな顔をしたらどうなんだ。こんなにも浮かれているのは俺一人だけって、まるで俺が馬鹿みたいじゃないか。

「・・・じゃあ適当に取っとくから」

溜息混じりの声の中に、不機嫌な響きが滲んでしまうのはどうしようもない。自分でも大人気ないと思うが、やっぱり恋人との同居となれば、それなりに嬉しいと思うのが普通じゃないだろうか。

「あ」

出前を取るため電話を掛けようとしたその時、忍の肩に付いていた小さな埃の存在に気が付く。そっと手を伸ばして取ってやろうとした瞬間。

「―――ッ、」

僅かに触れた背中がびくりと思いっきり跳ね上がる。
忍はがばっと振り返ると、ぱちりと目を見開いて宮城を凝視してくる。勢いのある実に素早い動作だったが、その中には僅かにぎこちなさが見て取れた、ような、気がした。

あれ・・・?

「あ、えっと、埃・・・付いてたから・・・」
「え・・・あぁ」

宮城が訝しげに顔を覗き込むと、忍はまたすぐにふいとそっぽを向いてしまう。しかしその視線は泳いでいて、動作にはやはり不自然さが滲んでいる。頬が僅かに染まっているように見えたのは、果たして宮城の気のせい・・・なのだろうか。

――――もしかして、

受話器を手にしたまま、忍の背中をじっと見つめる。

「忍」
「・・・なに」
「――――いや、」

緊張、してる?

と聞いたところで、きっと素直には答えない。
でも、そのやっぱりこっちを振り向かないようにしている背中や、そのおどおどとした動作が宮城の疑問の答えとなっているとこは、きっと明白だった。
なんだかこっちまで恥ずかしくなってきてしまって、宮城はいそいそと電話のボタンを押す。心なしか、自身の動作も何処かおどおどと落ち着きの無いものになった気がする。
電話に応対しながら、切った後の沈黙をどうやって乗り切るか、そればかりが宮城の頭を締めていた。

「・・・あー、えっと・・・ラーメン、ラーメンにした」
「わかった」
「・・・確か5分!いや、10分で来るって」
「どっちだよ」





2010.09.13

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