酷く気怠い体は、思考までも鈍らせていく。
カーテンの隙間から零れる空には色が無く、テレビのノイズのように鼓膜を打ち付けた昨晩の雨音が嘘のように薄暗い室内は無音の世界が広がっていた。
壁に寄りかかってぼんやりと、視線は無感情に窓の外を仰ぐ。ただ静かなばかりの光景に悲しさを覚えたのは、きっとあの日の空色に似ていたからだと思った。

「起きたのか」

静寂を破ったその声に視線だけをそちらへ向けると、秋彦が部屋の扉の前に立っていた。何も答えない美咲に対し、秋彦はタオルで髪を拭きながらベットの縁に腰掛けると、頭を撫でてくる。風呂上がりの温もりは心地よいものであったが、この空間には酷く異質なもののように感じた。

「そんな格好じゃ風邪引くぞ、せめて布団入るか服着るかぐらいしろ」

相変わらず頭を撫で続ける優しい手を甘受しながら、とりあえずはコクリと頷いてみせる。しかし何処か上の空な頭では上手く行動に移すことが出来ず、全く動こうしない美咲に秋彦は軽く溜息をついた。
ぎし、とベットが軋み、美咲は抱き込まれるように引き寄せらる。散々相手の熱を享受した体には力が入らず、無抵抗なまますっぽりとその広い胸に収まってしまった。シャツ越しの体温と石鹸の匂いを感じながら、思い出すのは昔の記憶、そして昨夜の熱を帯びた吐息が零した囁き。

何も考えるな
今は俺のことだけを感じて、俺のことだけを考えて、他のことは、何も。


何も


与えられる熱を必死に受け入れながら、美咲は霧散しそうな意識の中でそんな言葉を聞いていた気がした。
ゆっくりと目を閉じれば、全身に染み渡るように流れ込んでくる秋彦の鼓動。優しさが酷く嬉しかった筈なのに、最後に強く言われた言葉に頷けない卑怯な自身は、ありがとうを口に出来ずにいた。


お前は何も、悪くないんだ。











美咲は未だ両親の事故を自分のせいだと思っているけれど、それはそうやって自分を責めないとこの状況を飲み込めなかった節もあったんじゃないかなと思います。自分のせいだと思っているのは本当だけれど、でもそれ以上にに何かのせいにしないとやり切れなかったんじゃないかなって。あくまで私の考えですが。




2010.02.24

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