唇をゆっくり離すと、頬をほんのりと染めた瞳が見上げてくる。触れるだけに留めた長い口付け、しかしそれはとても甘く、優しい時間。 この胸から止め処なく溢れる恋情は、どうしたら相手に全てが伝わるだろうか。無責任にも感情は際限なくふくらむばかりで、その術まで知ることは出来ない。

「好きだよ、美咲」

だから、思いのままに気持ちを口にする。少しでも伝えたくて、この感情を知って貰いたくて。そしてもっと、俺を好きになればいいと。心はいつだって今以上を求めている。
すると美咲はいっそう紅潮して、うっせ、と呟きながら胸へとその顔を隠すかのように押し付けてきた。
そんな可愛い彼の体を更に抱き込んで、もう一度耳元に囁けば、秋彦の胸元のシャツを掴んでいた美咲の手がびくりと僅かに力んだ。 そのまま肩口に唇を寄せると、胸が慌てて押し返される。

「ちょ、ちょっとまてって!」
「まてない」
「時間を考――んんっ…」

壁に美咲の背中を押しつけると、今度は深く唇を重ねる。
いつもの如くじたばたと暴れはするが、キスの最中に力はだんだん抜けていき、口付けを解く頃には秋彦が体を支えてやるような形となる。そして涙の滲んだ瞳は悔しそうに、秋彦を睨め付けるのだ。
最も、最初から抵抗に力があまり込もっていないことを、本人は気づいているのだろうか。

可愛い、と笑うと、うるさいと美咲は叫ぶ。だからさ、そういう所が可愛くて仕方が無いんだって。

「好きだ」

こんなにも美咲が好きで、好きで。
きっと、気持ちに果てというものは存在しないのだろう。少なくとも、今のところこの恋は胸に広がりを見せるばかりで、止まる気配は皆無だ。

あまりの愛しさに胸が苦しくなって。しかしそれはとても、幸せな感覚だった。




2010.02.11

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