「創作活動というのはね、」

ゆっくりと相川が口を開く。
ピリッ、と張り詰めた空気からは彼女のこの仕事に対するパアトス――情熱がひしひしと伝わり、美咲はその雰囲気にゴクリと喉を鳴らした。

その口から巧みに語られる作家という仕事の大変さ、物語を綴ることに対するこだわりやスタンス、納得のいく作品にするまでの経緯。それはまるで彼女自身の経験(実際は側で見張っているだけだが)そのもののように鮮明、且つ壮大だ。
そして担当編集としての熱意、作家と伴に作品を作り上げるまでの様々な苦悩や努力。そして出来上がった書籍が店頭に並んだ瞬間、また重版がかかった瞬間の言葉だけでは伝えきれない感動。何処か遠くを眺めながら語る姿は、ドキュメンタリー番組に出てきそうなほど様になっていた。

「――でもね、その感動に行き着くまでに、私たちは何度も大きな壁にぶつかるわ」

テーブルに置かれた鞄を手で撫でながら、彼女の切ない表情が美咲に向けられる。当の美咲は感無量、といった感じに瞳をきらきら輝かせて彼女の話に聞き入っていた。

「先生も人の子よ・・・いくら天才と言われていても、やはり限界というものは存在するの」

すっ、と相川が顔を背けた瞬間、きらりと目尻に雫が光る。その刹那、美咲はソファーからがばりと立ち上がった。

「っおれ・・・」

相川がそちらへゆっくりと顔を上げる。そんな彼女に美咲は言い募った。

「俺でよければ手伝います、相川さんの役に立てるなら何でもします!!」
「美咲くん・・・・・・!」

ぱああ、と笑顔を輝かせながら相川はテーブルの鞄を手に取る。いかにもずっしりした、大きなボストンバッグを手渡された瞬間、美咲は先ほどとは打って変わってぽかんとした表情を浮かべた。

「じゃあそこに色々入ってるから、順番に着てみて!!」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「セーラーにナース、勿論メイド服もあるわよ」
「へ、え、ちょっ!!」
「先生の文章にリアリティを上げるためなの、協力してくれるわよね」

最後にとびっきりの笑顔を向けられた美咲に、逃げ道はどこにも存在しなかった。美咲はバッグをぎゅうと抱きしめ、顔を真っ青に染める。
視線は一瞬こちらを向き、そして相川を見て、ふるふると震え、仕舞には何かを叫びながら自室へと駆け込んで行った、勿論バッグを抱えたまま。

その様子を終始眺めていた秋彦はコーヒーを飲み干すと、相川の方へ向き直る。
いつの間にか手にデジカメが握られているうきうきとした彼女を横目に、相川絵理の本当の恐ろしさを垣間見た気がした。


(・・・あの、この白フリルエプロン何と一緒に着るんですか)
(ああ、それは単品よ)











携帯サイトの方の一万打企画のリク小説その1。
美咲がコスプレする話、でした。




2009.12.30

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