宇佐見秋彦の場合




意識が覚醒して、目を開いた瞬間飛び込んできたのは見慣れた寝室の飛行機模型やら旗ではなくただ真っ白い天井だった。はてここは何処だろうかと記憶を思い返す。
そういえば執筆途中だった気がして、しかし一体どうしてこんな見知らぬ部屋にいるのかが思い出せない。
すると横からガタリと音がして視界の隅に見知った姿を捉えた。

「美咲?」

初めは不安げだった表情が、小さな溜め息と共に安堵を浮かる。
そしてそれはみるみるうちに怒りへと変わった。

「またアンタは!何回目だと思ってんだ!!」

怒鳴り声が室内に響く。頭に響いて顔を歪めると、彼ははっとしてごめんと呟いた。

「ここは?」
「病院、連絡付かないから家入ったら、先生また倒れてんだもん」

大声を上げてしまった事への決まりが悪いのか、口調は弱々しい。

「また迷惑かけたみたいだな」
「そりゃあもう、でもいつものことですからね」

皮肉めいた言葉に笑いを誘われる、すると彼はムッとして、手のひらをずいと突きだしてきた。

「何?」
「もう我慢の限界です。鍵、俺に預けてください」

驚いて思わず顔を凝視してしまう、するとたじろぎながら美咲は続けた。

「また倒れられたらたまりません、一緒に住めとは言いませんから」
「何を言ってるんだ」

頭痛のせいか、些か声色が苛立たしいものになってしまう。すると美咲はぎょっとして、しかしここで引いたら負けだとばかりに再び口を開く。

「先生がテリトリーを踏み荒らされるのが嫌いなのはわかってます、でも、これが日常茶飯事じゃ困るんです」

いつになく必死に言葉を紡ぐ彼の表情は真剣で、真っ直ぐ自分を見ている。

「いや、しかし」
「最低限の管理がしたいんです、迷惑にだけならないようにします!だから・・・」

はっとして俯いてしまった彼は、しょんぼりした声ですみませんと呟いた。

「無理を言ってる自覚はあります。でも、先生が一人だと心配で・・・」
「だから、そうじゃなくて」
「へ?」
「だったら」

そんな中途半端なことをしなくても、もっと楽な術があるじゃないか。

「別に、一緒に住めばいい話だろ」
「へ?」

俯いた頭が上がり、間抜けな声と顔が俺を見た。




2010.01.02

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