見上げた先に広がるのは、深い深い海の底のような闇。その闇の中から次々に白い小さな雪達が姿を表し、静かに、ゆっくりと地上へと降り注ぐ。両手を広げればその上にひとつ、またひとつと結晶がぽつぽつ落ちてくる。部屋からの明かりで輝いていたそれは徐々に溶け出し、雫へと形を変えた。

「美咲、風邪引くぞ」

声のした方へ振り返ると、開けたままにされた出窓の縁に秋彦が寄りかかってこちらを見ていた。自分こそ病み上がりなくせに。

「大丈夫だよ、つか暖房付いてんだから閉めろって」

すると秋彦もベランダへと出てくる。
窓を閉めると、空を見上げながらこちらへ近づいてきた。

「また風邪ぶり返すよ?」
「平気、しかしすごいな」
「去年も結構降ってたよね」

今夜いっぱい降り続いたら、ベランダで雪だるまがが作れそうだ。2人並んで夜空を見上げる。サンダルだと足が酷く冷えるが、そんなことが気にならないくらいにちらちらと降り積もる雪は綺麗だった。

「聖夜に初雪だなんて、神様も粋なことをするじゃないか」
「あれじゃん?神様からのクリスマスプレゼントってやつ」
「・・・お前がそういう気障なこと言うと違和感あるな」

寒さに一瞬、体がぶるりと震える。そろそろ中へ入ろうかと考えていたら、不意に体をぐいと引き寄せられた。

「わっ、ちょっと、いきなり何だよ」
「温めてやってんだ」
「はぁ?別に平気だって」
「俺だって寒いんだよ、協力しろ」

後ろから抱きすくめられて、心臓がとくんと跳ねる。近すぎる体温にどきまぎしてしまうが、今日は何だか気分が良かったからそのまま抵抗せずにいた。

「星は見えないね」
「当たり前だろ、雲に覆われてるんだから」

風は無いが気温的には酷く寒いはずなのに、体を包み込む温もりのおかげかとても暖かい気がする。
結局今年のクリスマスも特別なことをせずに終わってしまうけれど、十分に幸せだなと思った。否、特別なことなんてなくたって、こうして一緒に空を見上げて、体温を感じられるだけで。

「美咲、好きだよ」
「っ・・・・・・」

耳元で囁かれる言葉は、いつも胸中で甘い鈍痛へと形を変わり、心を震わせる。普段なら気恥ずかしさが勝りすぐに逃れようとするのに、美咲は結局その腕を振り解こうとはしなかった。応える代わりに回された腕に自分の手をそっと乗せる。すると体をますます抱き込まれて、秋彦は暖かい、と呟いた。

寒いのなら中へ戻れば良かったのに、どちらもその提案を口に出すことは無く。暫くは互いの体温を感じながら、降り注ぐ銀色に目を奪われていたのだった。




Merry Christmas!











2日間のクリスマス小説、といいつつクリスマス要素が全く入ってない話となりました。
実は25日の方が先に執筆されたものだったりします。ふとした思いつきでウサギ視点も書きたい!みたいなノリで24日を書き始めたんですが、いつの間にか両方とも美咲くん視点になってました、話がぐだぐだで繋がりが曖昧なのもそのためです。




2009.12.25

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