ウサギさんと外で待ち合わせなんて、初めてのことだ。

今日は本当に真冬日って感じで、首元やジーンズ越しに吹き抜けていく乾燥した風はとても冷たい。時間まで後少し、約束の場所までも、あと少し。
ポケットに両手を突っ込んで、足早に進んでいく。いつもは何処へ行くにしても大抵自宅からだったり、秋彦が大学帰りの美咲をそのまま車で拾っていったりする。だからこうして所定の場所で待ち合わせなんて凄く変な感じがした。
このくすぐったい気持ちはなんだろう。

息を吐き出すと、白い吐息がふわりと宙を舞って消えていく。 その様子を見つめながら、ふと連想したのは今から会いに行こうとしているあの人。 きっと今頃、待ち合わせ場所で煙草を吸いながら美咲のことを待っているだろう。この白い吐息のような、紫煙を宙に踊らせながら。
もう一度息を吐き出して、白が空に消えゆく様子を眺める。何か物足りない気がして、一人首を傾げた。

待ち合わせ場所に秋彦は既に来ていて、やはり紫煙を巡らせながら、何処か遠くを見ていた。
近づいていくとこちらに気がついて、微笑を浮かべる。

「ごめん、お待たせ」
「大丈夫、まだ時間前だし」

時計を見ると、確かに約束していた時間より少し早かった。この人はいつからここにいたのだろうか。
秋彦は携帯灰皿を取り出すと持っていた煙草の火を消す。

「あ・・・・・・」

その時、鼻を掠めた匂いに、美咲はさっきの物足りなさの正体を知った。

「どうした?」
「ううん、なんでも」

以前は煙たいばかりだと思っていたのに、いつの間にか落ち着くようになってしまった香り。
それはきっと、慣れてしまったというより、秋彦を思い出させてくれるから。秋彦の存在を感じることの出来る匂いだからだ。
そしてそれは同時にキスの味を思い出させるものであったりもして、って何を考えてるんだ自分。

「行こうか」
「えっ、あ、うん」

2人肩を並べて歩き出す。
秋彦とたわいもない話をしながら、鼻の奥に僅かに残る煙草の香りに胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じた。




2009.11.28

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