高橋美咲の場合




※編集担当パロ


原稿を持つ手がぶるぶると震え出す。この何重にもある紙の束達を一気に引き裂きたい衝動に駆られ、いや駄目だ駄目だと理性を最大限に効かせて思いとどまる。
これは仕事だ、仕事なのだ。感情はすっぱり割り切ってしまわなければ。しかし文字の羅列を辿れば辿るほどに自然と感情は高まっていくもので。 いや駄目だ落ち着け、仕事だ。私情に流されていたらやってはいけない。それはちゃんと分かっているんだ、分かっているのだけれど、っ


「だから人の名前を勝手に出すなと何度言えば分かるんだー!!」

ばしーんと、破り去る変わりにテーブルへ原稿を渾身の力を込めて叩き付ける、これが精一杯の理性だくそこの野郎。
向いのソファーに座る執筆者様で大先生様である人はその様子を興味なさげに観察していた。

「前作も大好評だったんだろ、何が不満なんだ」
「自分が出ているBL小説を毎回毎回毎回読まされる身にもなれ!俺がどんな気持ちでこれを印刷所に持ってってるか!」

担当である以上必然的に校正チェックは欠かせない。自身が活字の中で喘ぐ姿のせいで俺はいつでも憤死出来る。恐らく世界初の出版社勤めで殉職も夢じゃない。これはセクハラで訴えることは可能だろうか。
否、人権侵害か?

「・・・・・・ったくもー」

自身がテーブルに散らした原稿をかき集め、震えながらも何とか全てに目を通す。担当になってから間もなくのこと、秋彦は突然このシリーズを書き始めた。
個人的には今すぐにでも発刊を阻止したいが、実際のところ、人気があるのは本当のことで。立場的にも状況的にも、完全に否定することは出来ない。結局、「仕事」という言葉にはかなわないのだ。
それにしても何故俺の名前を使って、あんなふざけた真似をさせるのかが全く分からない。

・・・・・・・ひょっとして、これは俺に対する嫌がらせか何かだろうか。

「あ、そういえばこれ、よかったらどうぞ」
「ああ、いつもすまないな」

惣菜が幾つか入ったビニール袋を手渡すと、ふわりと微笑みを向けられる。その笑顔に何故か心臓がどきりとした。

(な、何だ今の)

慌てて顔と思考をぶんぶん振り払い、チェックを終えた原稿とフロッピーを鞄に詰める。

「何してるんだ?」
「掃除してきますよ、なんか散らかってるし」

上着を脱いで袖を捲りながら答えると、ああと生返事が返ってくる。拒否しなかったから、勝手にやってもいいという事だろう。

洗濯物やら熊やらを拾いながら、視線を感じて頭を上げると、何やら楽しそうな顔がそこにはあった。

「なに?」
「いや、まるで」

通い妻みたいだなと思って。


次の瞬間、鈴木さんjrが宙を舞った。











補足設定

・美咲くん活字が平気です
・ウサギさんの担当兼世話係
・まだくっついてません
・同居もしてません
・兄ちゃんとウサギさんは知り合ってません(ごめんなさい)

こんなかんじ




2009.11.21

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