「秋彦」
「なんだ」
「本を持ってきてくれたのは有り難いんだが」

いつまで居座るつもりだよ

パソコンのキーボードを乱暴に打ちながら、ソファーで寛ぐお馴染みを睨めつける。そんな攻撃などお構いなしに、本人は優雅にコーヒーを啜っていた。

「今帰ると鬼担当の餌食になる」
「知るか、自業自得だろう」

どうやら毎度のことながら、仕事の状況が芳しくないらしい。さっきから機嫌が悪いのはこのせいだろうか。立ち上がって棚から資料を探す。本を引き抜こうとした瞬間、以前から気になっていたことをふと思い出した。

「そういえばさ、変わったよな」
「何が?」
「新刊、色々と」

先日購入した秋川弥生の著書、新シリーズだったそれは、登場人物の名前、設定やストーリー展開が今までとは大きく異なっていた。秋彦はあぁ、と興味がなさそうに頷く。

「嫌がるんだよな」
「何を?」
「名前を出すの」
「いや、当たり前だろ」

分からないと言わんばかりに眉間に皺を寄せた秋彦に、弘樹は思わずげんなりとした。BL小説などに自分の名前を出すことを許容する人間など、まずいないだろうに。

「もしかして例の同居人?」
「そんなところ」

ぼさっ、とソファーにもたれかかり、秋彦は何処からか拝借した本を開く。そんな様子を横目に、弘樹は彼の同居人について考えた。

破天荒な秋彦と共に住もうと思うなら、何事にも動じないかなりの包容力をもっていないと無理だと思う。だから同居人とやらはなかなか凄い人物ではないかと常々思っていた。
小説に出てきた美咲という少年を思い出すが、どう考えても設定は拡張や偽造が加えられていて、とても宛にはならない。今時こんな素直でピュアな奴がいるのならお目にかかりたいぐらいだ。
何せ同じく登場する秋彦は大きく捏造され全くの別人と化している。下手すれば一緒なのは名前くらいなもんかもしれないのだ。

「そろそろ帰る」
「いい加減担当泣かすの止めろよ」
「無理な相談だな」

パタンと閉じられた扉を見つめながら深く溜め息をつく。一体、どんな奴なんだろうな。パソコンの前に着くと、仕事を再開させた。暫くしてコンコン、と控えめなノックがされて、顔を上げる。

「どうぞ」
「し、失礼します・・・あの、高橋です」

すっかり忘れていたが、そういえばレポートの出来が悪かった生徒を一人、呼び出していたのだ。
入ってきた人物は顔が青ざめていて、びくびくと怯えているのが見て取れる。

「そこ座って」
「ハイ・・・」

パソコンの横にあったレポート用紙を手に取る。表紙の文面をざっと見返して、ある場所で弘樹の目が留まった。

(高橋、美咲・・・?)

レポートと目の前にいる学生の顔を見比べる。すると居心地悪そうに、高橋美咲はおずおずと口を開いた。

「あの、何か?」
「・・・・・・・・・いや」


まさか、ね。











【キャパシティー】capacity 受容力、包容力、能力

鉢合わせちゃうのも好きなんですが、すれ違いも面白いなと思ってこんな形になりました。
ヒロさんは愛ロマ読んでるらしいので(愛エゴ2巻参照)じゃあ美咲には気がついてるんじゃないかなって思うんですよね。仮にも成績が悪いことで目付けてそうだし、ウサギさんに直接聞いたわけじゃなくてもこいつかなあぐらいには。
今度は美咲+弘樹でも面白そうだな笑




2009.10.26

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