コーヒーを淹れようとキッチンに足を運ぶと、階段を下りる途中で家の雰囲気に違和感を感じた。
何て静かなんだろう。さっきまでは美咲がぱたぱたと家事をこなしていて、掃除機やら食器同士が重なり合う音が聞こえていたのに。音を失った瞬間、空間は無味乾燥なものへと姿を変える。と、そこまで考えてはっとした。

今まで静寂に違和感など感じた事が無かったのに、いつの間にか雑多な生活音を自然に受け入れている自分がいて。その変化に驚きと滑稽さを感じた。
買い物にでも行ってしまったのだろうかと考えながらキッチンへ赴くと、答えはそこにあった。美咲はテーブルにくたりと突っ伏していて、スースーと寝息を立てていた。腕の間から覗く気の抜けた寝顔に頬が弛む。昨夜、遅くまで無理をさせた自覚があるため少し申し訳なかったなと反省する。だからと言って、行為を改めるつもりはさらさら無いのだが。

「美咲、風邪引くぞ」

反応は無く、背中は規則的に上下しているばかり。頭をくしゃりと撫でてやると、美咲が少しだけ身じろいだ。指通りの良い髪は柔らかくて、陽に当たっているせいか暖かい。

「・・・・・・・・・ん」

仕方ないな。
目を覚ます気配のない体を優しく抱えて、美咲を自室まで運んでいく。僅かに開いた口元がたまらなく可愛い、なんて寝顔を観察しながら今下りてきたばかりの階段を再び上る。たどり着いたベッドに降ろしてやろうとした瞬間、美咲がもぞもぞと動き出した。

一瞬目が覚めたのかと思い顔を覗き込むが、相変わらず目が閉じられている。
すると美咲は、くたりと垂れていた頭を秋彦の体にすり寄せてきた。










・・・ウサギさん


下手すれば聞き逃してしまったかもしれないほどに、小さな小さな、愛しい響き。思わず目を見開いて、まじまじと美咲を凝視してしまった。
体を抱えていた手に思わず力がこもる。やんわりと締め付けるように、胸の辺りに広がった暖かさと鈍痛。それはあまりにも、幸せな感覚で。

「お前が悪いんだぞ」

寝かせてやろうと思ったのに、こんなことを無自覚でされたのでは自制が働かなくなるのは当然ではないか。

ベッドに降ろした体に上から覆い被さって、悪戯を開始する。 二階の一角から絶叫が響きわたるまで、あと10秒。


(ふざけんな!昨日何回したと思って)
(何回だっけ?)
(なぁっ!そんな・・・っバカウサギ!!)











携帯サイトの方の1000ヒット記念でフリーだったものです。 ありがちすぎて泣けてくる←




2009.10.19

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