「あっ」

どうした?
ほら、ウサギさん満月だよ

美咲と同じように秋彦が空を見上げると、そこには青白くて丸い光がぽつりと浮かんでいた。2人並んで歩く誰もいない夜道、辺りはとても静かだ。

「日本に来るまで、月なんて意識したことなかったな」
「えっ、そうなの?」
「ああ、向こうには月を見るって習慣が無いからね」

月を愛でる日本人とは違い、イギリスでは月はどちらかというと不吉なものだとされている。そんな話をすると、美咲は不思議そうにへえ、と首を傾げた。

「あ、でも確かに狼男とか、満月になると出るんだよね」

異国の文化の違いって、なんだか可笑しい。

「じゃあ、俺は日本人でよかったな」

美咲の言葉に、秋彦は月に向けていた視線を美咲へと移す。その瞳には月が宿っていた。

「どうして?」
「だってあんなに綺麗なのに、綺麗だって思えないのは何か勿体無いじゃん」
「ああ、確かにそうだな」

もう一度空を見上げる、さっきはさほど何とも思わなかったのに、今度は少しだけ綺麗かもしれないと思った。

「わっ、何してんだよ。ここ外だって」

不意に美咲の左手に指を絡ませる、秋彦より少しだけ小さな手は暖かい。

「誰も見てないから大丈夫」
「そういう問題じゃない」
「そういう問題です」

いつしかも似たようなやり取りをしたことを思い出して頬が弛む、チラリと美咲の方を見ると少し頬が赤くなっていた。手をぎゅっと握ると、応えるように握り返してくれて。愛しさから呟いた。

「・・・月が綺麗だな」
「?さっきから言ってるじゃん」



月が綺麗ですね=あなたを愛してる











NHKの英語番組で月の話が出てきたとき思いついたネタ。月の満ち欠けに応じた呼び方も、多数ある日本と違い適当らしいです。
ちなみに「月が綺麗ですね」というのは夏目漱石で有名なI love youのあれです。




2009.09.23

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