「好きだよ」
「だっ、だから何回も言うな!」

急激に上がった顔の熱は上昇の一方をたどるばかりで、ああどうして聞き飽きるほどに言われ慣れた筈の言葉に未だ慣れないのだろうか。いちいち反応する自分に辟易としてしまう。

「好き」
「うるさい!」
「どうして?美咲だって、好きなくせに」

肩にそっと手を置かれ、耳元で囁かれた低い声は美咲の鼓膜を甘く震わせる。そんな一挙一動にびくりとした美咲は、手を振り払い、自室に逃げるべく階段を駆け上がる。

「す好きじゃない!断じてない!」
「嘘はよくないな」
「嘘なんか、・・・うわっ、ちょっ!」

いつの間にか追いついてきた秋彦は美咲の体を捕獲すると、自らの腕にすっぽりと納めてしまった。ジタバタと暴れまわるぎゅうと抱きしめられて、抵抗の力が弱まる。

「美咲」
「ウサギさんは一方的すぎるんだよ」
「でも、好きなんだろう?」
「っ、ウサギさんほどじゃねーし!」

否定はしなかったものの、出てくる言葉にはやはり可愛げが無い。そんな恥ずかしいことを、そう簡単に言えるほど自分は素直に出来ていないのだ。
すると秋彦が美咲の耳元で笑った気配がして、そんな吐息にすら、びくりと体を震わせてしまう。

「じゃあ、俺が美咲を好きな以上に、もっと俺を好きにさせてやるよ」
「ばっんな日来るわけねーじゃん」
「顔、真っ赤だな」
「うるさいっ!」

だからどうして、この人はこんな言葉ばかりを口にするのだろう。しかもさらりというくせして、冗談で言っているなんて微塵も感じさせなくて。
そんな一言一言に、俺はたまらない気持ちになるんだ。

本当に、憎たらしい。

罵倒を浴びせつつも、素直に腕の中に収まっている自分にも腹が立つ。近すぎる体温を心地良く感じている時点で質が悪い。
どちらの気持ちが大きいかなんて測ったこと無いから分からないけれど、ひょっとしたら、自分も負けてないんじゃないのかな、なんて思ってしまって。

「好きだよ、美咲」

そんなこと、悔しいから絶対口に出したりはしないけれど。




2009.09.19

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