目覚ましが鳴り響いた。
ジリジリと煩わしい音は夢の中から意識を浮上させる、この瞬間が1日の中で最も嫌いだ。
自分の意志とは関係なく起こされることに、不快を感じない人はいないだろう。放っておいても音は容赦なく鳴り響き、眉間には自然と皺が寄った。手探りで時計を探し、手繰り寄せてボタンをポンと押せば再び辺りを静寂が包み込む。
そして再び睡魔に引き寄せられるがまま意識が沈みかけた瞬間、ぐいっと勢いよく体が引き寄せられた。

「わ、ちょっ!」

美咲の体を包み込んだ右手にはきゅっと力が込められて、左手に抱え込まれた頭は丁度胸の辺りに押し付けられた。
息苦しさから逃れようと、必死にもがいて頭を上げれば、すぐ目の前に秋彦の寝顔。起きた様子はなく、スヤスヤと寝息を立てている。

「んだよ・・・寝ぼけてんのか?」

それにしても腕の力は強く、何とか抜け出そうと色々試みるが全て失敗に終わった。今すぐ起きなきゃ不味いというわけではない、どっちみち逃れることは叶わなそうだ。力尽きた美咲は秋彦の腕の中に大人しく収まったままの体制でいることを諦めた。
寝ているくせに緩まない腕の力はまるで逃がさないと言わんばかりで、美咲は思わず溜め息を零す。もう一度視線を上に向けて、秋彦の顔をまじまじと観察する。そういえばこんな近くで見たのは初めてだ。
接近することは多々あるが、セクハラされた時は逃げるのに必死になっているし、キスの最中は恥ずかしさに目を堅く瞑ってしまう。ムニャムニャの最中だって、そんな余裕なんてありはしない。
って、何を考えてるんだ俺は。

赤面しながら自分の考えをぶんぶんと振り払った。パジャマ越しに感じる体温と、とくん、と心臓が脈打つ音。彼から感じ取れるそんな些細なものに心地よさを感じる自分は、そろそろ重症なのかもしれない。
すこし息苦しい秋彦の腕の中で、あまりに近すぎる鼓動に、何だか愛しさを感じて。







好き、


それは今にも消えそうなくらい、小さな呟き。その響きが届いたのか、秋彦が応えるように少しだけ身じろいだ。 再びうとうととし始めた美咲は、完全に目を閉じてしまう寸前、視界の片隅に目覚まし時計を捉えた。

「ってもうこんな時間!?」

勢いよく起き上がろうとした体は、やはり秋彦の腕に阻止される。

「おい、バカウサギっ!いい加減離しやがれ!遅刻する!」

ぎゃーぎゃー罵倒を浴びせながら盛大に暴れまわる、すると目の前にあった安らかな寝顔に陰が落ちて、低い呻き声のようなものが上がった。
しまった、この人寝起き最悪…!
毎回毎回分かりきったことだというのにこうも同じ失敗を繰り返す自分は、もしかして学習能力に欠けているのだろうか。いや、というか今そんなことを考えている場合じゃない。
うっすら開いた秋彦はギロリと美咲を睨めつける。反射的にびくっ、とした瞬間、秋彦は美咲の体をベッドへ縫い付けてきた。

「う、わ、ちょっ、俺学校!」
「・・・そんな格好して、俺を誘ってんのか」
「ッ違う!断じて違ぁう!」

すっかり失念していたが、今の美咲は何も身につけてはいない。
昨夜の行為の後そのまま眠りについてしまったのだが、同じく服を着ていなかった筈の秋彦が、ちゃっかりパジャマ姿なのはどういうことだろうか。そんな疑問は、目の前の男が首元に唇を這わせてきたことで吹っ飛んでいった。

「ばっ、何考えてやがる!まだ朝だぞ!?それに今日の一限は鬼の上條の」
「朝も夜も関係ない、こんな形で俺を起こした罰だと思え」
「ざけんなこのバカウサギいぃぃ!!」


前言撤回!ウサギなんて嫌いだ!




2009.09.19

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