「二人って、本っ当に仲が良いのね!」

じゃあまたね、と手をひらひらさせながら、義姉はやけに嬉しそうに笑っている。僅かに顔を俯かせた孝浩は何故か青ざめていて、母親の腕に抱かれた息子はそんな二人を不思議そうにぼんやりと眺めていた。パタンと玄関のドアが閉まり、静寂が訪れる。三人の姿が見えなくなった後でも、美咲は暫くの間呆然と手をひらひら降り続けていた。
義姉から最後に言われた言葉を頭の中で反芻させる、仲が良いって、一体誰とだれが?孝浩と美咲、兄弟のことを言っているのだろうか。でも何故急にそんなことを言いだしたのだろう。
玄関の靴を揃えながらそういえば、と美咲は後にいる秋彦へさっきからずっと感じていた違和感を口にする。

「今日は姉ちゃん、やけによく喋ってさー、何か変なことばっか聞いてきたんだよ」
「・・・・・・・・・」
「ウサギさんとはいつ知り合ったのかーとか、同居してからどれくらいになるんだっけーとか」

その他に普段の生活の様子や、ひたすら二人のことについて聞かれ、仕舞にはどうして名前ではなくウサギさんと呼んでいるのかという訳の分からない質問をされる始末。

「あと大学はどうだって聞かれたから、国文の先生が怖いって話したら急に騒ぎ始めて・・・」

ずいずいとこちらへ近づいてきそうな勢いで聞いてきた義姉の輝くような笑顔を思い出す。あの興奮が全面に滲み出ている表情、そういえば何処かで、見た記憶がある。
その時、背後で深々と溜息をついた気配がして、振り返ると秋彦が頭を掻きながらリビングへと戻って行く所だった。

「どうかしたの?」
「・・・・・・別に」



2010 Aug.03

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